フォーゼルとツカサーテル



むかしむかし、魔女が住むという国の片隅に、貧しい木こりの家族が暮らしていました。

この木こり夫婦には、二人のかわいい子供がおりました。
兄の名前はフォーゼル、妹はツカサーテルと言いました。
どこかで聞いたことがあるようなお話ですが、少し内容が違うので覗いてみましょうね

この家族の暮らしぶりは、とても貧しいものでした。
兄は、おっとりしてますが、ちょっぴり食いしん坊。妹は、しっかりものでしたが、
生意気さんでした。
木こりだけでは生活が出来ないので、母は小さな畑を耕しました。
ツカサーテルは母の畑を手伝い、父の木こり仕事の時には、フォーゼルが薪になる木を
集めました。





そんな中、ひどい冷害にみまわれ、畑の作物がすっかりかれてしまい、
貧乏な木こり家族は、その日に食べるパンにさえ困るようになってしまいました。
フォーゼルは、今日もお腹が空きすぎて眠れずにいると、隣の部屋から母と父の話し声
が聞こえてきました。

 

「おまえさん、明日からわたしたち、どうやって暮らしていけばよいんだろね。家には
もう食べるものも、ろくにありゃしないんだよ。このままでは、あと数日で小麦もなく
なってしまうよ。」(トットちゃん)
「わしらは水だけで我慢しても、育ちざかりのフォーゼルたちには、とても我慢なんて
出来やしないし、そのうち病気になってしまうよ・・・」(グラントン)



「そうだよ。食べ盛りの子供を、このまま飢え死にさせるなんて、あたしゃ耐えられないよ。
いっそ、子どもたちを森の魔女に預けてみてはどうかね?」(トットちゃん)
「魔女って?」(グラントン)
「あの深い森の向こうに住むと噂される魔女さね。あの森には、不思議な生き物もいると言うし、
何かに変えられたとしても、このまま飢え死にさせるよりは、ましじゃないかい。」(トットちゃん)
母親はさやくように言いました。
「このままこうして家にいて、あの子たちが衰弱して死んでいくなんて、とても見ちゃいられないよ。
運がよければ、あの子たちだけでも助けられるかもしれない。いや、フォーゼルとツカサーテルなら
強い子だから絶対生き抜けるさ。」(トットちゃん)

「だけど、子どもたちを森に置いてくるなんて、俺にはとても出来ないよ。」(グラントン)
「じゃあ、いったいどうしろと言うんだい? あんたが二人を置いて来れないと言うな
ら、わたしが明日連れて行くしかないじゃないか!」(トットちゃん)
母のけんまくに、父は黙り込んでしまいました。
この会話をお腹がペコペコで、寝るに寝られなかったツカサーテルまで聞いて
しまいました。





 
 妹のツカサーテルが、ちょっとふくれていいました。
「おにぃ、うちらとうとう、追い出されてしまうんだど。ツカサーテルなんて変な名前
をつけた上に、森に連れていかれて帰る家もなくなるなんて酷いよね!」(つかさ)
「ツカサーテル、大丈夫でしゅよ。ぼくがついていましゅからね。」(フォーちゃん)
「おにいは頼りないからなぁ。こうなったらあたいがおにぃを助けるよ。そうだ、おにぃ。
外の小石を集めてきてよ。それに印をつけて道に置きながら行けば、帰って来れるじゃん。
こりゃ良い考えだど。」(つかさ)



フォーゼルはこっそり外にでて、小さな小石を沢山集めました。

「おにぃ、早くしてよ!見つからないうちに赤いチョークで名前を書くんだからね」(つかさ)


「たくさんあるから、フォーとツカサーって急いで書いていくでしゅね。」(フォーちゃん)
 


次の朝早く、母は「今日は、みんなで森の奥にキノコを採りに行くからね。二人とも早く起きるんだ!
わかったね。」(トットちゃん)と言いました。


母の思いを察したフォーゼルが
「おかあしゃん、僕たち二人だけでも、キノコ採りなら行けましゅよ。まかしてくだしゃい。」(フォーちゃん)
「えっ、あの森の奥の深いところだょ。」母は驚いて聞きました。
キノコのある森はよく二人を連れて行ったことがありますが、子供たちだけでは行き
つけないと思ったからです。

「だってさぁ、食べるものがもうないって、おとうと昨日話していたじゃん」(つかさ)

母は驚いて言葉がありませんでした。が、ふたりを引き留めるすべもありませんでした。

 


小さなパンを一つずつ二人に渡しながら母は言いました。
「これが最後のパンだよ。どうしてもお腹がすいてしまって、本当に辛くなるまで、食
べてはいけないよ。それから、きのこには毒があるのが多いから、知らないキノコはけして
食べてはいけない。死んでしまうからね。」(トットちゃん)

「わかったでしゅ〜。」(フォーちゃん)
「ツカサーがついてるから、心配いらないど。」(つかさ)




母に手をふると、二人は、森の中へと入って行きました。
家からの道の途中で、フォーゼルは自分の家を何度も振り返りながら、目印のついた小
石を一つずつ道の真ん中に置いていきました。
お日様が二人の真上に来るころまで、休まず歩いたので、父がいつも木を切っていた場
所をとうに過ぎていました。





「そろそろ、おなかが空いてきたのでしゅ〜。」(フォーちゃん)
「おにぃ、お昼だからって、そのパン食べたら無くなるよ。キノコの森までは、我慢し
ないとダメだからねん。」(つかさ)

二人はお昼を過ぎても、パンを食べるのを我慢して歩きました。

「おにぃ、あの繁みの先を少し歩いたらキノコの森の近くに出るはずなんだよね?」(つかさ)

「そうなのでしゅが、あと少しなのにもう小石がないのでしゅ。本当にお腹が空いて辛
いので、パンをかじりながら、パンくずを少しだけ目印に置きながら行くことにしましゅでしゅ」(フォーちゃん)


「うーん、もう もったいないなぁ。」(つかさ)

もったいない♪もったいない♪もったいから♪とツカサーテルの頭の中でこだまが聞こ
えました。

「まあ、あと少しだから食べながら歩いて行ってもよいかぁ。」(つかさ)

空腹に負けてパンを少しずつちぎりながら、口にいれました。

フォーゼルはパンの耳の固い所を、道の真ん中に置いては歩きだしました。



しばらくすると やっときのこの森の入り口に着きました。

「あのぉ、シイタケしゃん、ブナシメジしゃん、えのきたけしゃん、エリンギしゃんは
いましぇんかぁ?」(フォーちゃん)

「おにぃは人工栽培ものばっかりさがすのかぁ?ツカサーはマツタケやトリュフ探して
高く売るど。」(つかさ)

「そうでしゅね。キノコ採り名人になって、路地販売をして生きていくのも良いのでしゅ〜」(フォーちゃん)
「それにしても、なんだかわからないキノコしか生えていないじゃない?」(つかさ)



ふたりが一生懸命キノコを探し始めると、今通って来た繁みの奥から、ガサゴソと物音

聞こえてました。
フォーゼルとツカサーテルが顔をあげて繁みの方を振り返ると、少年の雄馬が立ってい
るのが見えました。

二人があわてて近づくと、とても足が速いのか もう逃げて姿は、ありませんでした。