ホレのマリオネットおばばさん その1

むかしむかし、あるところに、母親と二人の娘が暮らしておりました。
お姉さんの方は、綺麗で良く働き 大変気だての良い子でしたが、この母親の本当の娘
ではありませんでした。
妹の方は母に似て、お顔は何と言いますか・・・・ 美人とは言えません。
性格は悪気はないのですが、はっきり言って面倒くさがりで、ズボラな性格とでも申しましょうか。
親に甘えて自分では何もしない子に育ってしまいました。
そんなズボラな怠け者ですが実の娘なので、母親は妹ばかりひいきして可愛がっていたのです。


母親は姉には、毎日のように仕事を言いつけておりました。
今日もお姉さんは、母親のいいつけで糸をつむぐ仕事をしていました。
この糸紡ぎは、いつも指から血がにじんでしまう程、過酷な仕事だったのです。



朝から糸をつむいでいると、糸巻きにまで血がついてしまいました。
糸巻きについた血を洗うため、姉は井戸に身をのり出しました。
その時、その糸巻きを水の中にすべり落としてしまったのです。



「ああっ、どうしよう・・・困ったわ。」(ギンガムちゃん)
お姉さんは糸巻きを井戸に落としてしまったことを素直に母親に話しました。
すると母親はひどく怒って、
「おまえって子はまったく役立ずなんだから! あの糸巻きを拾うまで、帰ってくるん じゃないよ。
 それまで家には入れやしないからね!さぁ、さっさと拾ってくるんだよ。」(トットちゃん)

そういうとドアを閉めて、お姉さんを家からほうり出してしまったのです。





お姉さんは仕方なく井戸に戻り、中を覗いて見ましたが、深くて暗い井戸の底は何も見
えません。
途方にくれましたが、糸巻きを見つけなければ、とうてい家には入れてもらえません



「もう井戸の中に入って見つけるしか方法がないわ・・・」(ギンガムちゃん)
そう決心すると思いきって井戸の中へ飛びこんでしまいました。



どれほど時間が経ったのでしょうか?!
美しい花が咲きみだれる広い草原に自分がいることに気がつきました。
「あー怖いと思ったけど井戸の中に、こんなに素敵なところがあったなんて驚きだわ。
 でも、そんなことより、私は糸巻きを探さなければ・・・・。」(ギンガムちゃん)



お姉さんは糸巻きを探すため歩き出しました。途中に大きなかまどを見つけました。
かまどの中からなにやら声が聞こえてきます。
「誰か私を引っぱり出しておくれよ!」「私も出して。はやく、はやくぅ。」「おいらも早くだしとくれー。」
 のぞいて見るとかまどの中にパンたちがひしめき合って何やらさけんでいるのでした。
お姉さんは一つ残らずパンたちを外に出してやりました。
「わぁぃ、助かったぞ。」「焦げずにすんだよ。」「助かったねぇ。」



 
お姉さんは糸巻きを探してそこを立ち去りました。また歩き出すと、道の横にあるリ
ンゴの木がなにやら話かけてきます。
「木をゆすってくれないかい? 私のリンゴの実たちを落として欲しいんだよ。」

お姉さんはリンゴの木をゆさぶって、たわわな実を一個残らず落としてやりました。

「腐る前にリンゴを落としてもらって良かったよ、ありがとう。」



さらに歩いていくと、小さな家がありました。
家の中から、ネズミのような長い前歯をしたちょっと怖いお顔のおばあさんが現れて言いました。

「わしは、ホレのマリオネットおばばじゃよ。わしは人間界に雪を降らせる魔女なんじゃ。
 おまえはここで働いてわしの助けをしておくれでないかい?」(マリオネットおばば)



「働くって言っても 何を私はしたら良いのでしょうか?」(ギンガムちゃん)
「いや何、働くといってもな、わしのベッドをなおす時に、ふとんをよく振って、羽
 毛がいっぱい飛び散るようにするだけで良いのじゃよ。」(マリオネットおばば)

「たった、それだけですか?」(ギンガムちゃん)

「ああ、それだけなんじゃ。そうすると、不思議なことに人間界に雪が降るんじゃよ。
 真面目にやってくれたら、お前さんにも良いことが起こるぞぇ。」(マリオネットおばば)



糸巻きも見つからず、行く当てのないお姉さんは、ホレのマリオネットおばばさんの家で働くことにしました。

毎日お姉さんは、布団をよく振っては羽毛を沢山とばしました。



何日経ったでしょう? ある日お姉さんは、おばばさんに言いました。
「お家を出たっきりで、やはりお母さんも妹も心配です。私もそろそろ お家に帰りたいのですが・・」(ギンガムちゃん)

「ほう、あのイジワルな母親の家に帰りたいのかぇ? まあ、帰りたいのなら帰えるのもいいさ。
 今まで何の不満も言わずに、働いてくれからね。ありがとうよ。」(マリオネットおばば)



そう言うと、ホレのマリオネットおばばさんはお姉さんを大きな門の下へ連れて行きました。
そして扉を開けながら、なにやら呪文を唱えました。
するとどうでしょう!空から沢山の金貨がお姉さんに降りそそいできました。
「この金貨をお前にあげよう。とてもよく働いてくれたからねぇ。それと、これも持っておいき。」(マリオネットおばば)
そう言いながら、なくなった糸巻きをお姉さんに手渡してくれました。そして、お姉さんを
井戸の上の世界に帰してくれたのです。



家に戻ってきたお姉さんを見た母親は、お姉さんの体中に金貨が沢山ついているのを見てびっくりして言いました。
「いったい家の仕事もほったらかしで、どこをうろついていたんだ。それにお前、その
 金貨はどうしたんだい?」(トットちゃん)



お母さんはお姉さんから今までのいきさつを聞くと、自分の子である妹にも良い思い
をさせるため急いで井戸に連れて行きました。
「さぁ、早く お前も井戸に飛び込むだよ。」(トットちゃん)
「ぎゃぁ、いやでしゅよ!! 真っ暗で怖いでしゅもん〜。」(ちびフォー)
「何言ってるんだい。魔女の家に行って、おまえも金貨をいっぱいもらってくるんだよ。
 これは愛なんだからね。」(トットちゃん)

そういってお母さんは無理やり井戸に妹をほおりこんでしまいました。



不思議なことに妹もお姉さんと同じようにきれいな草原に出ました。
しばらく歩いて行くとまた釜戸から
「誰か私を引っぱり出しておくれよ!」「私も出して。はやく、はやくぅ。」「おいらも早くだしとくれー。」と声が聞こえます。



「うるしゃいでしゅねぇ。あたちは金貨をもらいに来たのでしゅから、寄り道はしない
 のでしゅよ〜前に寄り道はろくなことにならないとしっかり学んでましゅからね。」(ちびフォー)
と言って、パンたちの声を無視して歩いて行ってしまいました。