おとぼけワンダフル 

魔女たちが住む村の近くの山に大変悪いトラが住んでおりました。
トラの被害を恐れた村人は大きなオリの罠をしかけました。
ある日のこと、沢山悪さをしていた一匹のトラが、まんまと罠にかかり、わめいてりました。
「こりゃぁなんだ! 出られないぞがぉー、助けてくれー!」
しばらく出してくれと叫んでいると、そこへ一人のお坊さんが通りかかりました。




「そこのお坊さま、助けてくださいがぉー」

「おやおや、どうしたのでしゅか?」(フォーちゃん)

「見てのとうりですがぉー。ここから出してください。」



「ということはでしゅよ。悪いことをしたから捕まっている訳でしゅね。
またお外に出たら、悪い事をしてしまうからダメなのでしゅ。」

「とんでもない。わたしは良いトラですがぉー。お腹が空いてここにあった餌が欲しか
っただけなのです。」
「そうなのでしゅか?空腹は耐えられないものでしゅからね。」

「それに助けていただいたら、ご恩は一生忘れませんがぉー。わたしはあなたに一生
お仕えしますがぉー。ですから、お願いです!助けてくださいがぉー。」

泣いて頼むトラを見て、お坊さんはなんだか可愛そうになってしまいました。



「そんなに悪いトラさんではなさそうでしゅね。うーん・・・そこから出してあげましゅ。
その代わり、二度と悪い事をしてはいけましぇんよ。」(フォーちゃん)

お坊さんがトラをオリからだすとトラは大笑いして言いました。

「ガッハハハハハッ。本当にバカな坊さんだがぉー。トラの言葉を信じて出すなんて。
ちょうどお腹もペコペコだがぉー。あんたはうまそうだし頂くとしようかな。」




お坊さんは、ビックリして言いました。

「ひぇー、ま、待ってくだしゃいよ。助けてあげたのにこんな目に合わせる事が、良い事か悪い事か、
みんなに聞いてみましゅから。その間は食べないでいてくだしゃい。」

お坊さんはそう言ってから、近くにあった大きな木に尋ねました。
ところが木は、「わたしなんか、いつもそんな目ばかりです。村の子供たちに木かげを貸してあげているのに、
子供たちはわたしの枝を折って追いかけっこをしています。良い事をしても 、
ひどい目に合うものです」と言って、トラの味方をしました。





「ほらみろがぉー。もう食べてもいいかぃがぉー?」
「まだでしゅよ。もっと皆の意見を聞かなくてはなりましぇん。」(フォーちゃん)

 ガッカリしながらも、お坊さんは今度は牛に尋ねてみました。
「助けたのに食べられそうとは、それはお気の毒。でもわたしの飼い主なども、わた
しがミルクを出すうちは、喜んでたくさんのエサをくれたのですが、ミルクが出なくなったとたんに
エサもくれなくなりました。良い事をしても、ひどい目に合うのは世の常です。」
 この牛も、やはりトラの味方でした。

「ガハハ、もうそろそろ食べてもいいかがぉー。」

「いやいや、まだでしゅよ。そんなに簡単に食べてはなりましぇん。」



お坊さんはそうとうがっかかりしながらも、歩きながら今度は地面の道に聞いてみました。

すると道は答えました。

「あなたが、良い事をしたからといって、お返しを望むのは無理というものです。わ
たしなどは貧しい人でも、お金持ちでも区別なく歩かせてあげています。でも、人がわ
たしにくれる物はゴミとか、つばとか、タバコの灰ぐらいのものですよ。良い事をしても、
ひどい目に合うものです」と道も、トラの味方をしました。




「ああ、もう駄目でしゅ。誰もわたしの味方をしてくれないのでしゅ。。」(フォーちゃん)
お坊さんは、とても悲しくなりました。
ちょうどその時です。巡回中の犬のおまわりさんが通りかかりました。




犬のおまわりさんが不思議そうに尋ねました。
「お坊さん。かなしそうですね。どうしたのですか?」(ワンダフル君)

「実は、わたしはもうすぐ、トラに食べられてしまうのでしゅよ。。」(フォーちゃん)
「それはいったいどうした訳なのですかワン?」
お坊さんは、犬のおまわりさんにわけを話して聞かせました。
「それは不思議な話ですワン。なんだか、さっぱりわからないですワン。」(ワンダフル君)

犬のおまわりさんは、首を傾げるばかりです。
そこでお坊さんは、もう一度、話を聞かせてやりました。




「ああ、ますます訳がわからないのですワン。右の耳から左の耳に話が抜けてしまうのですワン」
犬のおまわりさんは左耳を押さえてお坊さんに言いました。

「そのトラのところに行ってみましょうだワン。そうしたら、わけがわかるかもしれないですワン。」
そこでお坊さんと犬のおまわりさんが戻ってみると、トラはツメとキバをとぎながら、お坊さんを待っていました。



「ずいぶん待たせたな。さあ、早く食わせろ!がぉー」

 お坊さんは、ガタガタと震えながら頼みました。

「もう少しだけ待ってくだしゃい。おまわりしゃんが、話を聞きたいそうなのでしゅ」

「犬のおまわりさんを連れてきたのか?ごちそうが逃げたら逮捕してくれよ」

お坊さんは食べられたくないので、犬のおまわりさんに細かいところまで、ていねいに話してやりました。




その説明を聞いた犬のおまわりさんは、大げさに叫びました。

「わかりましただワン。なぁーんだ、簡単ですワン。つまりお坊さんがオリの中にいたのですね?」(ワンダフル君)

「何を言ってるんだがぉー! このわたしがオリの中にいたんだよ!」トラは、あきれて言いました。





「ああ、そうでしたワン。このわたしがオリにいたんだ。いや違いますワン、このわた
しっていうのはお坊さんの事ですワン。お坊さんはオリにいて、トラが外を通りかかったのですワン
 (ワンダフル君)


「何をいうとるがぉー! わたしっていうのは、このわたしの事だがぉー。こうなったら、分かるまで
とことん話してやるぞ」

「はい、よろしくお願いしますワン」(ワンダフル君)




「いいか、よく聞けよ。ここにいるわたしは、トラさまだ」

「はい、トラさまですワン」

「これが、坊さんだ」

「はい、はい、お坊さんですワン」

「そしてこれがオリ。このオリの中にいたのは、このトラさまだがぉー」

「なるほど、トラさまの中にいたのは、このオリだったのですワン」

「このマヌケ! どうやったら、オリがわたしの中に入るのだがぉー!」



「ワァ〜ん。そんなに怒らないでくださいよ。最初の最初がどうなっていたか、わからないから
いけないんですワン。
えーとですワン、トラさまはどうやって、このオリに入ったんですキャン?」(ワンダフル君)

「どうやってだって? そうだなあ。何気なく入ったんだと思うよ」

「何気なくとは、どういう事ですキャン?」

「これって実況見分っていうやつなのか?それなら、こんなふうにかなぁ」そう言いながら、
トラはオリの中へ飛び込んで見せました。




「なるほどわかりやすいですワン。そして、オリにはこのようにカギが閉まっていた
のですキャン?」
 犬のおまわりさんはそう言うと、オリの戸のカギをしっかりと閉めてしまいました。
「そうだがぉー。この様にオリが閉まっていて・・・。あっ、しまった!よくも引っかけたな!」

こうしてトラは、おとぼけのうまい犬のおまわりさんに閉じ込められてしまいました。

「おまわりしゃん、ありがとうございまちた。助かったのでしゅ〜あなたは、命の恩人でしゅね」(フォーちゃん)

「いやいや、皆さんを守るのが私の仕事です。もう二度とトラを外に出してはいけませんですワン 」(ワンダフ君)

正直者で優しいお坊さんも、二度とトラのオリにはちかずきませんでした。

このお坊さんのお話はまたいつか・・・








これはインドの昔話をお人形絵本風にしたものです
トラからと坊さん助けた山犬を参考にさせていただいてます
福娘童話集)