くさったりんご2





「いや、すまん。甘いにおいがするが、その袋の中身はいったいなんだい?」(グラントン)

「ああ、これは痛んだリンゴなんですよ。沢山あるので家畜のえさにでもするつもりで
います。」(ダレン)
それを聞いたお父さんは、お母さんが家の小さなリンゴの木を見ながら、こんなこと
を言っていたのを思い出しました。


「沢山のリンゴが成って、食べきれなくて痛んでしまうくらい家にあったら良いのにね
ぇ。一度でいいから、そんなぜいたくな思いがしてみたいわぁ。」(アップル )
お父さんはダレン君に、メンドリと痛んだリンゴをぜひ取り換えて欲しいと頼んでしまいました。

「メンドリと腐ったリンゴを交換するのですかぁ? 僕はとても助かりますが、本当に
良いのですか?」(ダレン)

「ああ、いいんだよ。換えてくれるかい?」(グラントン)



ダレンくんは首をかしげながら、何度もペコリペコリとお辞儀をして、リンゴの袋を
渡しました。
何しろメンドリは、リンゴの何倍も高いのですから不思議でたまりません。



お父さんはリンゴの袋を持って店に入り、お酒を飲みパンを食べはじめていると、店
中に焼けたリンゴのにおいが広がりました。
うっかりリンゴの袋を暖炉の前においたので焦げてしまったのです。

そのにおいで、気がついた大金持ちのノリヘイさんが地下の通路から顔を出して言いました。
「大変だ!あなた、リンゴを損してしまいましたね。」(ノリヘイ)


「いやいや、大丈夫です。焦げたのはひとつだけですよ。」(グラントン)
お父さんは笑いながら大金持ちのノリヘイさんに、年老いた馬が痛んだリンゴに変わ
るまでの話をしました。
その話を聞いた、ノリヘイさんは目を丸くして驚きました。
「それはあなた、奥さんに絶対に叱られますよ。」(ノリヘイ)

お父さんは、首を大きく横に振りながら言いました。
「いやあ、家の奥さんはね、こんなことで怒らないですよ。それどころか、きっと喜ぶ
に違いないと思いますよ。」(グラントン)

「そんな人がいるわけないないじゃないですか! 本当に喜んだとしたら、ぼくはあな
たにタルいっぱいの金貨をあげても良いですよ。これは賭けですな。私は怒り出す方に
賭けますよ。」(ノリヘイ)
大金持ちのノリヘイさんは、そう約束しました。




お父さんが帰るときノリヘイさんは、地面を這ってお父さんの家までついて行くこと
にしました。


ノリヘイさんは、実はお金持ち過ぎて嫉妬に狂った魔女に数年前、もぐらの容姿に変え
られてしまってたのですが、誰もが知るこの辺の大地主で有名な人なんです。



家に着くと、お父さんの帰りを今か今かと首を長くして待っていたお母さんが
「おかえりなさい。市はどうだったの? 早く話を聞かせてよ。」(アップル)
とわくわくしながら言いました。
「ああ、そうだね。今日は、本当に長い一日だったよ。」(グラントン)

お父さんは大金持ちのノリヘイさんの見ている前で今日の出来事を話し始めました。



「あれから、馬をね、まず牝牛と取り換えてもらったんだよ。」(グラントン)
「あら、お父さん、それなら牛乳が飲めるじゃないの。ありがたいわ。」
「だがな、わしはその牝牛をまた羊に取り換えてしまったんだよ。」(グラントン)
「ますますいいじゃないの。羊ならセーターが編めるものねぇ。」(アップル)
「いやいや、その羊もガチョウに取り換えてしまったのさ。」(グラントン)
「あら、でもガチョウはお祭りに食べられるのよ。とてもおいしそうで、よだれが出てしまうわ。」(アップル)
「ところが、そのガチョウもメンドリと取り換えてしまったんだよ。」(グラントン)
「へぇ、なんて運がいいのかしら。これからタマゴを毎日食べられるて事じゃないですか。」(アップル)
「いや実は、そのメンドリを結局最後に痛んだリンゴと取り換えてしまって、今帰った
ところなんだよ。」(グラントン)



「アハハハハ、まあ、苦労したのねぇ。でも、なんて幸せな話かしら。 お父さん、今度は
あたしの話も聞いて欲しいわ。

あたしは今日、ネギを貸してもらおうと隣の家に行ったのよ。
そしたら奥さんに『家には痛んだリンゴ一つさえありません。』と言われたの。。



本当かもしれないし、いやみだったのかも解らないけど、実際世の中には、確かに困っている人が
山程いるものなのよ。
でも、それなのに。どう? 今のあたしは、その痛んだリンゴを山ほど持っているじゃないの。 
アハハハハ、これって本当に愉快な話よ。こんないい気分になったのは、初めてだわ。



やっばり、お父さんのする事って間違いはないわ。いつも私を幸せな気持ちにして
くれるんだもの。」(アップル)

お母さんはそう言うと、うれしそうにお父さんのほっぺたにキスをしました。

それを見ていた大金持ちのノリヘイさんは、
「なんて幸せな夫婦なんだろう!こんな奥さんが私も欲しいものだ。これは完全にわしの負けだな。」



そう言ってお父さんとお母さんに、約束通りタルいっぱいの金貨をプレゼントしてくれました。
もちろん、二人はそれからも コツコツ畑を耕し、けして欲張らず、庭に植えたリンゴ
の木がすずなりになると、美味しいリンゴをみんなにわけて 毎日笑顔で楽しい会話をして
暮らしました。

そうそう、ノリヘイさんは、今も もぐらのまま、素敵な人との巡り逢いを待っています。
愛のあるキスで、元の姿にもどれる日はいつのことでしょうか・・・

おしまい